#7種類の資料:同じ会社でも、必要な資料はまったく違う
1つの会社でも、自社を紹介する資料は少なくとも6〜7種類必要です。それぞれ読み手が異なり、読み手が知りたいことも異なります。事業計画書を1つのPDFにして、すべての面談に持参しても、どの場面でも十分には機能しません。
| 資料 | 読み手 | 分量 | 答えるべき中心的な問い |
|---|---|---|---|
| 会社案内 | 一般顧客、パートナー | 5-10ページ | 何を売っている会社ですか? |
| 採用デック | 応募者 | 10-15ページ | なぜこの会社で働くべきですか? |
| 政府助成金申請書 | 審査員、評価機関 | 20-50ページ(指定様式) | なぜこの事業が制度の政策目標に貢献するのですか? |
| 5分間のデモデイ用ピッチ | 大勢の聴衆、報道関係者 | 10-12枚 | 最初の1分で何に引きつけられますか? |
| 面識のない相手へのメール添付資料(エグゼクティブサマリー) | 投資家(一次選考) | 3-5ページのPDF | 面談する価値がありますか? |
| 初回面談用ピッチデック | 投資担当チームの投資家1-2名 | 付録を除き約15枚 | 中核となるビジネスモデル+チーム+調達額と時期 |
| 投資委員会用デック | 担当チーム以外の複数のパートナーやアソシエイト | 付録を除き30枚以上 | なぜ当ファンドがこの会社に資金を投じるべきなのですか? |
#7つの重要な違いを一覧で確認
事業計画書、政府向け申請書、会社案内とピッチデックを分ける、7つの重要な違いを示します。この7つのうち1つでも事業計画書の書き方が残っていると、投資家は「この人は資金調達の準備ができていない」と判断します。
| 比較軸 | 事業計画書/政府向け申請書 | ピッチデック |
|---|---|---|
| ① 読み手 | 審査員、評価機関 | 投資家(案件の主担当+他のパートナー) |
| ② 分量 | 20-50ページ(指定様式) | 初回面談は15枚/投資委員会は30枚以上 |
| ③ 順序 | 指定様式の順序(会社 -> 事業 -> 市場 -> 財務) | 会社の存在意義 -> 課題 -> 解決策 -> なぜ今か -> 市場 -> 競合 -> ビジネスモデル -> チーム -> 財務 -> ビジョン |
| ④ 語り口 | 政策の言葉(政策との整合性、雇用創出、輸出) | 投資家の言葉(TAM/SAM/SOM、前月比成長率、CAC、LTV、模倣困難な優位性) |
| ⑤ 数字の詳しさ | 総事業費、助成金額、自己負担資金の比率 | バーンレート、3年間の財務計画、希望調達額、ユニットエコノミクス |
| ⑥ チーム紹介の位置 | 末尾の付録、または簡略版 | 本文のビジネスモデルと市場の説明の直後(スライドH) |
| ⑦ 最終ページ | 「ありがとうございました」+事業スケジュール | 資金調達の要望(必要額、資金使途、マイルストーン、ビジョン) |
#ピッチデックの10項目構成:事業計画書の目次と何が違うか
以下は、韓国のシード〜プレシリーズAのVCが標準とする、ピッチデックの10項目構成です。政府向け申請書の「企業の現状 -> 事業概要 -> 市場分析 -> 実行計画 -> 財務計画」という順序との決定的な違いは、ピッチデックでは「なぜ今か」と「ビジョン」に専用のスライドを設けることです。
| # | 項目 | 一文での定義 |
|---|---|---|
| A | 会社の存在意義 | なぜ会社が存在するのかを、1つの言い切りの文で示す |
| B | 課題 | 顧客が現在抱えるペインポイント(ペルソナ、バリューチェーン) |
| C | 解決策 | 顧客に提供する中核的な価値+具体的な利用例 |
| D | なぜ今か | なぜ今、この市場が本格的に形成されつつあるのか |
| E | 市場の可能性 | TAM / SAM / SOMの算出 |
| F | 競合 | 直接・間接競合+自社の模倣困難な優位性 |
| G | ビジネスモデル | 収益モデル+事業カテゴリー別の主要指標(MAU、MRR、CAC、LTV) |
| H | チーム | 共同創業者と主要メンバー(氏名+経歴・経験+持株比率) |
| I | 財務 | 3年間の売上計画+バーンレート+希望調達額 |
| J | ビジョン | 5年後に何を達成しているか |
#「何をするか」+「どう実現するか」:同じ会社でも、事業計画書とピッチデックでは伝え方が変わる
「特定分野に特化したECを運営している」と説明する、架空のファッションD2C企業を考えてみましょう。政府向け申請書とピッチデックで、市場を説明するスライドがどう変わるかを比較します。
| 比較軸 | 政府向け申請書の書き方 | ピッチデックの書き方 |
|---|---|---|
| 市場規模 | 「韓国国内のEC市場は₩200Tで、毎年成長している」 | TAM ₩200T(EC全体)/ SAM ₩12T(ファッション特化型)/ SOM ₩120B(20-30代女性、D2C、ボトムアップ算出) |
| 課題 | 「既存の流通の非効率性と消費者満足度の低下」 | 20-30代女性の2つのペルソナ、平均返品率28%、サイズへの不満に関するNPSは-12 |
| 解決策 | 「AIを活用したパーソナライズ推薦プラットフォームの構築」 | 体型診断 -> 1週間以内のフィット保証付き交換、リピート購入率42%、平均注文単価₩112K |
| 競合 | 「大手A社・B社と差別化したサービスを提供」 | 直接競合3社・間接競合2社の比較マトリクス+一文の差別化要素(体型診断+フィット交換) |
| 財務 | 総事業費₩500M、助成金₩400M、自己負担資金₩100M | バーンレート₩42M/月 / ランウェイ12か月 / シードで₩800Mの調達を希望 / 資金の80%をグロースマーケティングとCACの検証に充当 |
政府向け申請書が「何をするか」に重点を置くのに対し、ピッチデックでは、同じスライドで「何をするか」に加えて「どのように、どの段階を経て実現するか」に答える必要があります。「特定分野に特化したEC市場を狙う」が「何をするか」なら、「第1段階:20-30代女性、第2段階:30-40代男性、第3段階:日本への進出」が「どう実現するか」です。
#分量の落とし穴:初回面談用と投資委員会用は別の資料
「ピッチデックは完成した」と考え、同じ版をすべての面談に持っていく創業者は少なくありません。初回面談用と投資委員会用では、分量、読み手、さらには質疑応答の時間まで異なります。
| 比較軸 | 初回面談用デック | 投資委員会用デック |
|---|---|---|
| 読み手 | 投資担当チームのパートナーまたはアソシエイト1-2名 | 担当チーム以外の複数のパートナーやアソシエイト |
| 分量(本文) | 付録を除き約15枚 | 付録を除き30枚以上 |
| 時間 | プレゼン20-30分+質疑応答30分(合計60-90分) | プレゼン30分以上+質疑応答30分以上(合計約90分) |
| 読み手の事前知識 | ほぼなし(ビジネスモデル、チーム、調達規模を初めて確認する) | 投資メモを通じて事前に説明を受けている |
| 詳しさ | 中核となるビジネスモデル+チーム+調達額と時期を明快に示す | ユニットエコノミクス、コホートデータ、3年間の財務計画、感度分析まで掘り下げる |
| 説明者 | CEO単独(場合によってCTOも同席) | CEO(他のパートナーもCEOに直接会いたいと考えている) |
| 付録 | 付けるとしても簡潔に | 想定問答の付録が必須。繰り返し聞かれる質問は本文に組み込む |
#作り替える際によくある5つのミス
政府向けの事業計画書や会社案内をピッチデックに作り替える際に、創業者が最もよく犯す5つのミスを紹介します。初回面談で、最も早く検討対象から外されるパターンでもあります。
- 表紙にロゴしかなく、会社の存在意義を一文で言い切る説明がない。読み手は最初の5秒で何をする会社か判断できない
- チーム紹介が付録や末尾にあり、氏名と役職しか載っていない。経歴、経験、創業者同士が出会った経緯がすべて欠けている
- 市場のスライドに大きなTAMの数字が1つあるだけ。SAM/SOMの内訳も、算出根拠の出典もない
- 競合のスライドがない、競合が1社しか載っていない、またはすべての比較軸で自社が優位だと主張するマトリクスになっている
- 最終ページが「ありがとうございました」だけで、必要な調達額、資金使途、マイルストーンがない。資金調達の要望を示すスライドが完全に欠けている
#事業計画書をピッチデックに作り替えるためのチェックリスト
既存の事業計画書や政府向け申請書を、スライドごとにピッチデックへ組み直すための実践ガイドです。ほぼゼロから作る必要があるスライドもあれば、手元の素材を再利用できるものもあります。
| スライド | 事業計画書から再利用できる内容 | 新たに作る必要がある内容 |
|---|---|---|
| A. 会社の存在意義 | 会社のビジョンを示す文章 | 一文で言い切る説明+CEOの連絡先 |
| B. 課題 | 「背景」の一部 | 2-3のペルソナ+定量指標(NPS、返品率など) |
| C. 解決策 | 「事業内容」の一部 | 具体的な利用例+差別化された価値 |
| D. なぜ今か | ほぼなし | 技術、規制、トレンドが変化するタイミング(完全に新規作成) |
| E. 市場 | 「市場分析」のTAMの数値 | TAM/SAM/SOMの内訳+ボトムアップによるSOMの算出式 |
| F. 競合 | 「競争環境」の一部 | 直接・間接競合の比較マトリクス+模倣困難な優位性を示す一文 |
| G. ビジネスモデル | 「収益構造」の一部 | 事業カテゴリー別の主要指標(MAU/MRR/CAC/LTV)+現在の数値 |
| H. チーム | 「組織体制」の一部 | 共同創業者が出会った経緯+持株比率の配分+主要メンバーの経歴と経験 |
| I. 財務 | 「財務計画」の売上表 | 3年間の売上+バーンレート+希望調達額と資金使途 |
| J. ビジョン | 会社のビジョンを示す文章の一部 | 5年後の姿+長期ビジョンを伝えるストーリー |
#自己点検チェックリスト
- 表紙に、会社の存在意義を一文で言い切る説明とCEOの連絡先がありますか?(5秒ルール)
- 初回面談用(15枚)と投資委員会用(30枚以上)のデックを分けていますか?
- チーム紹介は付録ではなく本文(項目H)にあり、氏名、経歴、経験、持株比率、創業者同士が出会った経緯を含んでいますか?
- 市場のスライドではTAM、SAM、SOMを分け、SOMのボトムアップの算出根拠を示していますか?
- 競合のスライドには直接競合と間接競合の両方を載せ、模倣困難な優位性を一文で示していますか?
- 財務のスライドに、3年間の売上計画、バーンレート、希望調達額、資金使途の内訳をまとめて載せていますか?
- 「ありがとうございました」ではなく、資金調達の要望(必要額/資金使途/マイルストーン/ビジョン)で締めくくっていますか?
- PDFで保存していますか?(編集用の元ファイルは絶対に送らないこと)
事業計画書をピッチデックに転用する前に点検しましょう
書き直しを始める前に、投資家が求める根拠が不足している主張を確認できます。
提出前に根拠・論理・リスクを確認する意思決定支援サービス
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