#ベスティング条項がないと危険な理由
共同創業者は書類に署名した時点で、法的に株主になります。別途ベスティング条件を設けていなければ、1週間後に辞めても持分はそのままです。その後のすべての資金調達ラウンドで、投資家は離脱した株主の持分も当然に計算へ織り込みます。その結果、働き続けているチームの取り分は、本来あるべき水準より小さくなります。
ベスティングは、会社に貢献した期間に応じて持分を段階的に獲得する仕組みです。つまり「働いた分に応じて持分を得る」という考え方です。逆に、誰かが離脱した場合は、まだ権利が確定していない分を会社や他の創業者が買い戻せます。この買戻し権をクローバックと呼びます。
シリコンバレーの標準は、4年のベスティング期間と1年のクリフです。韓国の初期スタートアップでは、まだこの仕組みを適切に整えている例は多くありません。最もよくある間違いは、会社設立初日にすべての持分の権利を確定させてしまうことです。この問題は、最初の投資家審査で指摘されるか、紛争が起きてから初めて表面化しがちです。
#ベスティングの基本構造:クリフ・月次の権利確定・加速条件
ベスティング設計には3つの軸があります。ベスティング期間(合計何年か)、クリフ(必要な最低在籍期間)、加速条件(M&Aや解任をきっかけとする前倒しの権利確定)です。この3つを組み合わせ、契約に明記する必要があります。
| 項目 | シリコンバレーの標準 | 韓国での推奨目安 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ベスティングの総期間 | 4年 | 3〜4年 | 短すぎると早期離脱の動機が強まる |
| クリフ(最低在籍期間) | 1年(25%の権利が確定) | 1年(約25〜33%の権利が確定) | クリフ前に離脱した場合、権利確定は0% |
| クリフ後の権利確定方法 | 毎月均等(1/48) | 毎月均等(1/36または1/48) | 四半期ごとも可能。契約に明記する |
| シングルトリガーの加速 | M&A完了時に50〜100%の権利が即時確定 | M&A時に50%の権利を前倒しで確定 | 買収側から反対される可能性を考慮する |
| ダブルトリガーの加速 | M&Aと解任の両方が起きると100%確定 | 最も一般的に推奨される構造 | 創業者の保護と買収側の安心感を両立する |
クリフは「少なくともこの期間は在籍して初めて、持分の権利確定が始まる」という最低条件です。1年のクリフなら、364日目に離脱した人の確定済み持分はゼロです。1年に達した瞬間に25%(4年スケジュールの場合)が一括で確定し、その後は毎月一定分が追加で確定します。クリフがなければ、わずか3か月で離脱した人も、確定済みの持分を持っていくことになります。
加速条件は創業者を保護する仕組みです。M&Aで会社が買収された直後に創業者が強制的に解任されるケースに備えます。シングルトリガーの加速(M&Aの完了だけで権利確定が前倒しされる)は、買収側にとって負担が大きくなります。ダブルトリガーの加速(M&Aと正当な理由のない解任の両方が起きて初めて前倒しされる)は、交渉で摩擦が少なく、実務でもより広く採用されています。
#離脱時の持分クローバックを設計する:買戻し価格と方法
ベスティングが「どれだけの持分の権利を確定させるか」であるのに対し、クローバックは「権利が確定していない持分をどう取り戻すか」です。韓国では、契約上「株式買戻し権」や「優先買取権」として定められることがよくあります。名称よりも中身が重要です。
買戻し価格は交渉の核心です。最もよく使われる基準は、額面、当初の取得原価、公正市場価値(FMV)の3つです。創業初期は株式の実質的な価値が低いため、額面または取得原価を基準とするのが一般的です。シリーズA以降は、FMVを基準とする価格設定が増えます。
| 買戻し価格の基準 | 適用される時期 | 創業者側の視点 | 離脱する側の視点 |
|---|---|---|---|
| 額面(通常₩100〜₩500) | プレシード・初期段階 | 費用を最小限に抑えられる | ほぼ無償で株式を返すことに近い |
| 取得原価(実際の払込額) | シード期前後 | 現金負担は小さい | 当初の元本だけを回収する |
| 公正市場価値(FMV) | シリーズA以降 | 現金負担が増える | 市場価値で現金化できる |
| グッドリーバー/バッドリーバーの区分 | 段階を問わず推奨 | 離脱理由に応じて条件を分ける | 自発的か非自発的かの区別が重要 |
実務で最も紛争になりやすいのが、グッドリーバーとバッドリーバーの区分です。グッドリーバーとは、健康上の理由、双方の合意、その他の正当な理由で離脱する人です。バッドリーバーとは、競合への転職、重大な義務違反、横領などを行う人です。同じ離脱に見えても、その理由に応じて買戻し価格と対象割合を変えることで、相当数の紛争を防げます。
買戻しの手続き自体も、契約に明記する必要があります。通知期間(例:離脱確認から30日以内に権利行使を通知)、買い取る権利を持つ主体(会社か他の共同創業者か)、支払い期限を具体的に定めていなければ、実際の紛争で条項が機能しなくなるおそれがあります。
#契約書を作成する前に確認すること
以下のチェックリストは、新たな共同創業者間契約を作成するときにも、既存の契約を見直すときにも使えます。紛争時に機能させるには、すべての項目を契約書自体に明記する必要があります。
- ベスティングの総期間が、契約に年数で記載されていますか(例:36か月または48か月)?
- クリフの期間と、クリフ到達時に確定する割合が具体的な数字で示されていますか?
- クリフ後の権利確定方法(月次または四半期ごと)が明確に定義されていますか?
- 加速の発動条件(M&A・解任)が、シングルトリガーかダブルトリガーか明記されていますか?
- 離脱時に未確定の持分を取り戻す権利を持つのが、会社か共同創業者か明記されていますか?
- グッドリーバーとバッドリーバーの定義が、具体例を列挙して記載されていますか?
- 買戻し価格の基準(額面・原価・FMV)が段階別に定められていますか?
- 買戻し権を行使するための通知期間と支払いスケジュールが、数字で示されていますか?
- 紛争時の準拠法と裁判管轄が定められていますか?
- 作成後の契約書を法律の専門家(弁護士)が確認しましたか?
10項目中7項目以上を満たしていれば、基本的な保護の仕組みは整っています。5項目未満なら、今すぐ契約を見直す必要があります。紛争が表面化するのは実際に離脱が起きてからですが、損害の大きさは署名時の契約設計によってすでに決まっています。
#よくある5つの間違い
韓国の初期創業チームがベスティング設計を誤るケースには、繰り返し見られるパターンがあります。以下は、スタートアップ法務の実務でよく見られるパターンをまとめたものです。個別の契約は必ず専門家に確認してください。
- 初日にすべての持分の権利を確定させる:ベスティング条項を一切設けず、会社設立と同時に株主名簿を確定させることです。後で誰かが離脱しても、持分を取り戻す法的根拠がありません。
- 口約束だけに頼る:「後で何かあったら一緒に整理しよう」。口頭での合意は紛争時に立証が難しく、裁判所は書面の契約に基づいて判断します。
- クリフなしで毎月権利を確定させる:1か月働いただけで離脱する人にも、持分の1/48が確定します。数か月以内に辞めた人が、無視できない持分を保有することになりかねません。
- 買戻し価格の条項がない:未確定の持分を取り戻す権利はあっても、価格の基準がありません。交渉が決裂すると、買戻し権は機能しなくなります。
- 加速条件を省き、創業者の保護を手放す:M&A直後に買収側が創業者を解任すると、創業者は未確定の持分を失います。最低限の創業者保護として、ダブルトリガーの加速条項が推奨されます。
この5つの間違いは、1つずつ見ると小さく感じられます。しかし実際に共同創業者が離脱すると、会社の存続そのものを揺るがす要因になります。契約は、チームが順調に動いている状態だけを想定して書くものではありません。関係が悪化する場合に備えて、あらかじめ作っておくものです。
#よくある質問
Q. すでに会社を設立していますが、今からベスティング条項を追加できますか? — はい、可能です。株主間契約(SHA)を作成するか、既存の契約を変更して追加できます。ただし、全株主の同意が必要です。また、設立から長い時間が経っている場合は、既存株式の一部消却や新株の再配分といった構造上の調整が必要になることがあります。
Q. ベスティング期間中に資金調達で希薄化した場合、権利確定の割合も変わりますか? — 一般に、ベスティング条項自体は資金調達による希薄化を織り込みません。権利確定スケジュールの対象は、創業者の持分比率ではなく、当初合意した株式数です。調達後に持分比率が変わっても、権利確定スケジュールは当初の設定どおりに進みます。
Q. クリフを過ぎてから離脱した場合、確定済みの持分は一切取り戻せませんか? — 原則として、権利確定済みの持分はクローバックの対象になりません。ただし、バッドリーバー条項を通じて、確定済みの持分にも優先買取権(指定価格での強制売却)を設けることで対応できます。これも、事前に契約へ明記して初めて効力を持ちます。
Q. ストックオプションとベスティングは違いますか? — はい。ベスティングは、すでに付与された株式の権利が確定する条件です。ストックオプションは、将来、特定の価格で株式を購入できる権利です。オプションにも独自のベスティングスケジュールが付くことはよくありますが、共同創業者の持分設計とは法的な構造が異なります。共同創業者の持分にはベスティングを、初期従業員の持分にはストックオプションを使う設計が一般的です。
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