#3つのデッキの実際のスライド構成
下の表は2次分析の出典に基づく再構成です。AirbnbとDropboxのデッキは各社の公式公開資料ではなく、分析者による再編集版から引用しており、スライド数や細かな順序は出典によって異なる場合があります。Intercomのデッキだけが、共同創業者Eoghan McCabeが公式ブログで直接公開した1次資料です。
| デッキ | 調達目標 | スライド数 | 最初の内容スライド | 確認されたスライド順序(分析資料に基づく) |
|---|---|---|---|---|
| Airbnb (2009) | $600Kのシード資金 | 分析の出典によって異なる | 課題 | 課題 → 解決策 → 市場検証 → 市場規模 → 製品 → ビジネスモデル → チーム |
| Intercom (2011) | $600Kの転換社債 | 8枚 | 未確認 | デッキ内部の順序は非公開(公式ブログへの掲載は確認) |
| Dropbox(シード) | $1.2Mのシード資金 | 17枚(分析資料に基づく) | 課題('Storage is a mess') | 課題 → ビジョン → 解決策 → 製品 → 競合 |
3つのデッキすべてに「課題定義 → 市場 → 解決策 → なぜ今か → チーム」という単一の順序が同じように適用されるとの主張は、出典からは確認できません。共通して確認されるのは、課題のスライドをほかの内容スライドより前に置くという配置の原則です。
#「課題を先に示す」配置が働く理由
投資家はデッキを読みながら、頭の中で質問の順序を作ります。課題が先にあれば、「これは実際の困りごとか」を確認してから解決策を見ます。解決策が先にあれば、「これは何を解決するのか」が最初に浮かびます。その状態では、解決策のスライドがどれほどよくできていても、投資家の集中はすでに乱れています。
Dropboxの最初のスライド「Storage is a mess」は、製品説明ではなく利用者の状態を言語化したものです。この1文から、投資家は経験したことのある、または十分に想像できる不便を思い浮かべます。課題スライドの役割は、投資家を「この課題を一度でも感じた人」にして、次のスライドを見てもらうことです。
#市場は解決策の前か、後か
分析資料に基づくAirbnbのデッキでは解決策が先にあり、その後に市場検証と市場規模が置かれています。Dropboxの分析資料では、解決策の前にビジョンがあります。3つのデッキが市場を同じ位置に置いているという明確な根拠はありません。
ただし、構造上の原則はあります。市場は解決策の規模を正当化できる位置に置きます。解決策を先に見せた後で「市場はこれほど大きい」と続けると、市場は解決策を正当化する材料として読まれます。逆に市場を先に示すと、解決策はその機会への応答になります。どちらの位置でも、市場と解決策を論理的につなぐという原則は同じです。
Airbnbのデッキが解決策の後に市場検証を入れたのは、「すでに機能している」というシグナルを示すためです。調達時点の2009年には、Airbnbですでに初期の取引が発生していました。解決策の直後に市場検証を置く構成は、モデルの説明に続けて「このモデルが実際に機能する」という証拠を示す方法です。
#チームが末尾に来る理由
Airbnbの分析資料では、チームのスライドは末尾近くにあります。チームを先に見せると、投資家がその人たちを知らなければ、履歴書を1枚見せるだけになりがちです。一方、課題・解決策・市場・モデルの論理が十分に積み重なった後にチームを示すと、投資家の問いは「この課題を解ける人たちか」に変わります。
チームのスライドは、それまでの論理全体に人の名前を結び付けるものです。先行する論理が弱ければ、チームのスライドも弱くなります。「このチームを信じてほしい」を結論にするには、それより前に信頼できる根拠を積み上げる必要があります。
#韓国のPSST構成との比較
韓国政府支援事業の標準事業計画書は、PSST(P:課題認識 → S:実現可能性/解決策 → S:成長戦略 → T:チーム構成)の4つの大項目で構成されます。韓国の創業振興院はStartup Eduでこの枠組みを公式に教えています。表面的な構成はシード期IRデッキの論理順序に似ていますが、重点は異なります。
| 項目 | シード期IRデッキ(投資家への説明) | PSST(審査員への説明) |
|---|---|---|
| 課題(P) | 投資家が共感できる困りごとを言語化し、市場機会の出発点にする | 社会・市場の課題を現象と根拠で説明する |
| 解決策(S) | 課題を解く方法と差別化を簡潔に示す | 実現可能性:技術・製品の実装方法とチーム能力の証明が中心 |
| 市場(S) | 解決策の前後で機会の規模を裏付ける | 成長戦略:対象顧客・売上計画・チャネル戦略で説明する |
| チーム(T) | 論理を積み重ねた後で、末尾に「このチームが実行する」と結論付ける | 能力・経験・保有技術を中心に、実現可能性とつなげる |
PSSTで実現可能性が市場より先に来るのは、政府支援事業の審査基準が投資に対するリスクではなく、事業化を実行できるかを中心にしているためです。シード投資家はポートフォリオの観点で賭けますが、政府の審査員は支援金を現実的に活用できるかを先に確認します。
#同じ論理をPSSTに適用するときに変える3つの点
IRデッキの課題を先に示す原則と構造上の配置の論理は、PSSTでも有効です。ただし、そのまま移植すると抜けが生じます。
- 市場規模の示し方:IRデッキのTAM・SAM・SOMは機会の規模を伝えるための道具です。PSSTの成長戦略では、「市場が大きい」より初期の対象顧客数と具体的な売上への到達経路が重要です。「3年以内に顧客500社、1社当たり年300万ウォン」のような計算式は、「市場全体10兆」という主張より実現可能性の説明を埋められます。
- 「なぜ今か」の位置:シード期IRでは、市場のタイミングを独立したスライドや明示的な重点として示します。PSSTでは、この論理を課題認識(P)に組み込む必要があります。「この課題が今、より深刻になっている理由」を課題認識に含めると、審査員は事業の緊急性を自然に理解できます。
- チーム能力の配置:IRデッキはチームを末尾で一度示す構成です。PSSTは異なります。チーム能力はまず実現可能性(S)で「このチームがこの技術を実装できる理由」として証明され、Tで整理されます。チームを最後の1ページに集めると、実現可能性の項目は論拠のない空白になってしまいます。
出典
- Intercom's first pitch deck - The Intercom Blog — Intercom(共同創業者Eoghan McCabe執筆), 未確認(2011年のデッキ。ブログ公開日は未確認) (確認日: 2026-10-01)
- 事業計画 — 政府支援標準事業計画書(PSST)— Startup Edu — 韓国の創業振興院 / K-Startup(Startup Eduプラットフォーム), 未確認 (確認日: 2026-10-01)
- Airbnb Pitch Deck (2009): 13-Slide Seed Deck — startupfundraising.com — startupfundraising.com(2次分析), 未確認 (確認日: 2026-10-01)
- Dropbox pitch deck to raise seed capital investment — alexanderjarvis.com — Alexander Jarvis(2次分析), 未確認 (確認日: 2026-10-01)
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